最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)1176号 判決 1954年12月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意(後記)第一点及び弁護人表権七の上告趣意(後記)第三について。
原判決の認定した事実によると、被告人は自転車競争施行者でないのに、京都市内に営業所として本店及び支店を設け、昭和二六年九月四日綾仁正一外二百数十名から同日施行された京都市主催宝ケ池競輪の勝者投票券合計約九〇〇枚の購入方委託を受ける名義の下に、投票番号特記の会員申込書と題する証票合計約三百数十枚を投票券一枚につき一一〇円(投票券額面金額に手数料として金一〇円を加算したもの)の割合による現金と引換に交付したものであって、右交付の際の契約によれば、たとえ被告人において委託にかかる投票券を現実に購入しなかった場合でも右申込書に特定した勝者投票が的中した場合には自転車競争施行者が払戻すべき金額と同額の金員を前記金員申込書と引換に被告人から払戻すべく、的中しなかった場合には投票券代金を返還するに及ばない約旨であり、現金の授受は被告人と委託者との間において終始する関係にあったというのである。以上原判決の認定した事実だけから見ても、被告人は自転車競争施行者でないのに、勝者投票券発売類似の行為をなした者であること明らかであり、改正前の自転車競技法一四条一号に該当すること多言を要しない。そして前記認定のような約旨で本件行為に出でた以上、被告人が現実に委託者の委託したとおりに勝者投票券を購入したか否かは、右違反行為の成否に関係がないものと解すべきであるから、この点に関する原判決の説示には適切を欠くものがあるけれども、被告人の行為が前記法条に該当することは原判決の認定事実自体により明らかであるから、原判決の判断は結局において正当である。従って、被告人が委託どおり投票券を購入したか否かに関する証拠上の論難はすべて問題とならない。また、論旨中には原判決が論旨引用の東京高等裁判所の判決と相反する判断をしたと主張しているが、論旨引用の東京高等裁判所の判決は、本件と認定事実を異にするので適切でないばかりでなく、その後当裁判所の判決(昭和二七年(あ)六四三〇号昭和二九年一〇月八日第二小法廷判決)により変更されているのであるから、刑訴四〇五条三号の判例に該当しない。なお原判決は、被告人の本件行為を改正前の自転車競技法一四条一号に該当するものとして行為時法により処断したのであり、所論のように行為当時適法であった行為につきその後に制定された改正後の法規を適用して処断したものではないこと前説明により明らかであるから、憲法三九条違反の主張はその前提を欠き理由なく、また憲法三一条違反の主張も所論のような法規適用の違法がないので、これまた前提を欠き理由がない。
被告人の上告趣意(後記)弁護人表権七の上告趣意第一及び第二、弁護人塚崎直義、同村上信金の上告趣意第二点ないし第四点について。
論旨は、いずれも事実誤認又は量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、本件には同法四一一条を適用すべき事由も認められない。
よって、同法四〇八条に従い主文のとおり判決する。
以上は、原判決が第一審判決を破棄して自判した点についての裁判官小林俊三の少数意見を除き裁判官全員の一致した意見である。
裁判官 小林俊三の少数意見は、昭和二七年(あ)五九七号同二九年六月八日第三小法廷判決記載の同裁判官の意見のとおりである。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)